『モリス』(講談社リデビュー小説賞受賞作:改稿中)

49

クビキリ(初稿−12)

12

 カフェ『ル・セレクト』の前に到着する。放課後、いてもたってもいられず、店にやって来てしまった。学校にいる間も、電車に乗っている間も、元町の華やかな商店街を歩いている間も、「見つけたぞ! 食い逃げ犯だ!」と声をあげられ、肩を掴まれるのではないかと、小心者の僕は落ち着かなかった。

「まあ、そうだよね」

 店の前の立て看板は「CLOSED」となっている。昨日、強盗事件があったんだから、当た

もっとみる
とっても嬉しいです…!

クビキリ(初稿−11)

11

 暗号について僕が気づいたことを、スマートフォンのメッセージで森巣へ飛ばした。既読マークはついたが、返事はない。昨夜、言われた通り僕が見たものも森巣に送ったが、それの返信もなかった。読まれているとは思うけど、無言なのはなんだか不安になる。

 昼休みになり、様子を知りたかったので六組に森巣の様子を見に行ってみた。中を覗くと、生徒たちは僕らのクラスと同様に、強盗ヤギについて喋りながら動画を見

もっとみる
明日もがんばります!

クビキリ(初稿−10)

10

 強盗ヤギに遭遇した翌日、もしかしたらと思っていたいけど、予想は的中した。

 教室では授業が始まるまでの暇つぶしに、生徒たちがいくつかグループを作り、談笑をしている。それは毎朝の光景だ。だけど、昨日よりも活気があり、スポーツ中継を見るような興奮が漏れ聞こえてきた。ちらりちらりと確認しながら席に向かう。スマートフォンを囲み、強盗ヤギの動画をみんなが鑑賞していた。画面の中には、見覚えのある店

もっとみる
とっても嬉しいです…!

クビキリ(初稿−9)



 店にやって来たのは、ネクタイをしていないスーツ姿の二人組だった。身長は百七十から百八十の間くらいだろう。颯爽とやって来た二人を見て、まるで映画だと思った。現実離れしている。その理由は明白で、頭がゴム製のヤギを模したマスクですっぽりと覆われていたからに他ならない。生で見ると、毛並みまで質感が再現されており、リアルで気味が悪かった。

 強盗ヤギだ。強盗ヤギが現れた! と息を呑み、頭が真っ白に

もっとみる
励みになります!

クビキリ(初稿ー8)



「助けてくれてありがとう」

 森巣がグラスを持ったまま固まり、不思議なものを見るような目を僕に向けて来る。

「柳井先生の家で、森巣が助けてくれなかったら、僕はどうなっていたか。もっと早くに、お礼を言いに行くべきだった。ごめん」

 やっと言えた。母親から、人に優しくしなさい、と教わってきたが、感謝の気持ちも忘れてはいけない、と言われてきた。だから、森巣に向き合ってお礼を言わないで日常を過

もっとみる
励みになります!
1

クビキリ(初稿ー7)



「もしかして芸能人の方ですか?」
「芸能人? いや、違いますよ」

 森巣が淡々と答えると、オーナーが顔を歪め、恐縮した様子で、「すいません」と連呼しながら、頭を下げた。「すいません、失礼しました。たまにいらっしゃるので」

 確かに「はい、芸能人です」と言えばモデルにでも俳優にでも見えるよな、と僕は森巣をちらりと見る。芸能人だったらサインをもらって店に飾ろうとでも考えたのだろうか。もしくは

もっとみる
お読みいただき、ありがとうございます!

クビキリ(初稿ー6)

6 

「空いていてよかったな」と森巣は店の隅の席に座った。

 僕は店が空いていたことよりも、椅子に座り、足を休めることができることが嬉しかった。椅子は小学校の教室にあったような木製の椅子で、硬く、座り心地もよくはない。それでも、文句はなかった。

 文句があるとすれば、森巣に、だ。

「空いているのは、すっかり夜だからだよ」僕は大きく溜息を吐き出し、足を投げ出すように伸ばす。じんわりと足の筋肉

もっとみる
お読みいただき、ありがとうございます!

クビキリ(初稿ー5)



 正解、と思ったのは、気の迷いで、主に空腹が原因だったのではないかと思う。

 あのまま美術室で役立たずとしてぼーっとしているのが嫌だったから、切り上げたかっただけじゃないのかという気もする。強盗ヤギにまつわる問題を先送りにしただけだし、そもそもこの問題は僕に関係がない。

 それに、森巣と小此木さんと僕の三人で行くのだとばかり思っていたのに、小此木さんは「わたしはパス」とあっさり言ったので

もっとみる
お読みいただき、ありがとうございます!
1

クビキリ(初稿ー4)



 小此木さんは、世間が注目している犯罪に関する暗号を解けたと、さばさばとした口調で言った。得意げな様子をおくびも出さず淡々としていた為、自分が話題の勘違いしているのではないかとさえ思ってしまう。

 だから、「強盗ヤギのやつ」と小此木さんが言ったとき、「やっぱり!」と大きな声をあげてしまった。

「強盗ヤギが好きなのか?」

 不謹慎だ、とか、ミーハーな奴め、と呆れるような口調で森巣に言われ

もっとみる
明日もがんばります!

クビキリ(初稿ー3)



 移動中、森巣に話しかけることができなかった。頭の中で言葉を探すが、緊張して何を言っていいのかわからない。元気だった? と訊ねても、「元気だったよ」と返されるだろう。その後に、なんと続ければいいのか思い浮かばない。

 森巣はすれ違う生徒たちから、挨拶をされ気さくな様子で返事をしていたが、僕に対しては無言だった。ずいずいと歩調を緩めずに歩いていく。怒らせるようなことをしたかな? と気になった

もっとみる
とっても嬉しいです…!
2