『モリス』(講談社リデビュー小説賞受賞作:改稿中)

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クビキリ(初稿−16)

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 母親が作ってくれたオムライスとサラダを食べ終え、台所で夕飯の食器洗いをしていたら、妹の静海が「お兄ちゃん、これどうしたの?」と訊ねてきた。膝の上には、レンタルビデオ店の袋が乗っている。

「ああ、友達が勧めてくれた映画を借りたんだよ」
「あたしも観たい! お母さんはどうする?」

 妹が車椅子に座ったまま体を捻り、リビングのテーブルでノートパソコンに向かっている母親を見る。会社でやりきれ

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明日もがんばります!

クビキリ(初稿−15)

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 店を出ると、森巣は空を見上げてから、「ちょっと寄りたいところがある」と言って歩き始めた。僕は「いいけど」と返事をしつつ、森巣の歩調に合わせて隣を進む。

 歩きながら、でも、と思う。
 でも、君の隣を歩き続けるのは無理だ、と。 

「森巣は僕のことを買ってくれているみたいだけど、もう今回みたいに、君に協力はできないと思ってほしい。僕はまだ高校生だし、君みたいに悪に立ち向かうなんて無理だよ

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クビキリ(初稿−14)

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 森巣は優しい口調でそう言って、オーナーを見据えた。

「俺はさっき、話し合いに交ぜてもらって、話を少し聞かせてもらいました。警察にも通報しないと約束をしました。弱いものいじめをしている感じじゃないですしね。でも、ここにいる平は約束をしていない。警察に通報するかもしれません」

 オーナーが目を剥き、ぎょっとして青褪め、狼狽えるのが見て取れた。口が呆けたようにぽかーんと開く。その開いた口あ

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クビキリ(初稿−13)

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「ゾディアックに似てるマークがあるから、文章が暗号なんじゃないかとわかった。そして、次の店がヒントになっていることがわかった。次に、残された文章をつなげると、文章になることもわかった。更に、そこには二十七歳で死んだミュージシャンが登場していることもわかった。けどな、それは一旦全部忘れろ」

「忘れる?」
「事件の真相は、俺が昨日見たものと、お前が昨日見たもので、全てがわかるぞ。エド・サリヴ

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クビキリ(初稿−12)

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 カフェ『ル・セレクト』の前に到着する。放課後、いてもたってもいられず、店にやって来てしまった。学校にいる間も、電車に乗っている間も、元町の華やかな商店街を歩いている間も、「見つけたぞ! 食い逃げ犯だ!」と声をあげられ、肩を掴まれるのではないかと、小心者の僕は落ち着かなかった。

「まあ、そうだよね」

 店の前の立て看板は「CLOSED」となっている。昨日、強盗事件があったんだから、当た

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クビキリ(初稿−11)

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 暗号について僕が気づいたことを、スマートフォンのメッセージで森巣へ飛ばした。既読マークはついたが、返事はない。昨夜、言われた通り僕が見たものも森巣に送ったが、それの返信もなかった。読まれているとは思うけど、無言なのはなんだか不安になる。

 昼休みになり、様子を知りたかったので六組に森巣の様子を見に行ってみた。中を覗くと、生徒たちは僕らのクラスと同様に、強盗ヤギについて喋りながら動画を見

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クビキリ(初稿−10)

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 強盗ヤギに遭遇した翌日、もしかしたらと思っていたいけど、予想は的中した。

 教室では授業が始まるまでの暇つぶしに、生徒たちがいくつかグループを作り、談笑をしている。それは毎朝の光景だ。だけど、昨日よりも活気があり、スポーツ中継を見るような興奮が漏れ聞こえてきた。ちらりちらりと確認しながら席に向かう。スマートフォンを囲み、強盗ヤギの動画をみんなが鑑賞していた。画面の中には、見覚えのある店

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クビキリ(初稿−9)



 店にやって来たのは、ネクタイをしていないスーツ姿の二人組だった。身長は百七十から百八十の間くらいだろう。颯爽とやって来た二人を見て、まるで映画だと思った。現実離れしている。その理由は明白で、頭がゴム製のヤギを模したマスクですっぽりと覆われていたからに他ならない。生で見ると、毛並みまで質感が再現されており、リアルで気味が悪かった。

 強盗ヤギだ。強盗ヤギが現れた! と息を呑み、頭が真っ白に

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クビキリ(初稿ー8)



「助けてくれてありがとう」

 森巣がグラスを持ったまま固まり、不思議なものを見るような目を僕に向けて来る。

「柳井先生の家で、森巣が助けてくれなかったら、僕はどうなっていたか。もっと早くに、お礼を言いに行くべきだった。ごめん」

 やっと言えた。母親から、人に優しくしなさい、と教わってきたが、感謝の気持ちも忘れてはいけない、と言われてきた。だから、森巣に向き合ってお礼を言わないで日常を過

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クビキリ(初稿ー7)



「もしかして芸能人の方ですか?」
「芸能人? いや、違いますよ」

 森巣が淡々と答えると、オーナーが顔を歪め、恐縮した様子で、「すいません」と連呼しながら、頭を下げた。「すいません、失礼しました。たまにいらっしゃるので」

 確かに「はい、芸能人です」と言えばモデルにでも俳優にでも見えるよな、と僕は森巣をちらりと見る。芸能人だったらサインをもらって店に飾ろうとでも考えたのだろうか。もしくは

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