『モリス』(講談社リデビュー小説賞受賞作:改稿中)

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百万円ゾンビ(2稿−14)

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 駅前広場のベンチに戻り、ぼーっと人の往来を眺める。知らない人たちで溢れている。この町には、たくさんの人がいる。大人も子供も、良い奴も悪い奴もいる。ぶつかり合いも起こるけど、僕はできれば、誰も傷つかない町であって欲しいと祈る。

「よお」と森巣が手をあげてやって来た。
「やあ」と僕は返事をする。

 休日の森巣は白いシャツに細身の黒ジーンズというシンプルな格好だった。着飾っていないの

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百万円ゾンビ(2稿−13)

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 男はこの世の悲しみに打ちひしがれるように、がっくりと肩を落として固まっていた。かれこれ、十分以上ぴくりとも動かずに地面を見つめており、通行人は心配する声をかけることもなく、集まって期待の眼差しを向けている。それは彼が道化の格好をしているからだ。

 若いカップルが立ち止まり、男の方が「前にも見たんだけど、すげーんだよ」と恋人の女に自慢げに話す。女は早く買い物に行きたかったが、周りで評判を

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とっても嬉しいです…!

百万円ゾンビ(2稿−12)

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「お金を脅し取るっていうのは、感心できませんよ」

 友達が被害者になり、仕返しがてら金儲けをするのは正しい道ではない。口実が欲しかっただけではないか。

「やられたことをやり返してやりたかったんだよね。逆らえない相手に法外な値段を請求される気持ちを味わってもらいたかたんだ」
「で、あなたは百万円で何を買うんですか?」

 僕が軽蔑していることに察してか、ピエロが「あー」と納得するように漏

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百万円ゾンビ(2稿−11)

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 僕と彼の間には、見えない壁がある。彼は、透明の壁の存在に気づくと首を傾げ、不思議そうに空中を叩いた。この見えない壁を回り込めるのではないか、と手のひらで壁を触れながら少しずつ横にずれていくが、終わりが見えてこない。

 どこまでもどこまでも、永遠に見えない壁が続く。

 遠くからではわからなたかってけど、目の前に立つと瞼の上から縦に引かれた線や、頬に描かれた涙のマークが見え、メイクにも気

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お楽しみいただけて幸いです…!

百万円ゾンビ(2稿−10)

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 自分の失態を報告するのは辛いものだ。

「逃げられちゃったのは平くんのせいじゃないよ」

 自分の失態を優しく慰められるはとても沁みる。面目ないとはまさにこのことで、恥ずかしくて小此木さんの顔を見られなかった。小此木さんは俯く僕に、「しょうがないって」としきりに声をかけてくれる。

「相手の足が速かったんだから」
「足が遅くてごめんなさい」
「ドンマイ、切り替えていこう!」

 ベンチに

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百万円ゾンビ(2稿−9)



 マスクをした見ず知らずの女性から「見てた」と言われた。

 何を? 慌てて頭の中で、記憶の蓋を引っくり返して回る。「内密にお願い致します」というゾンビからの手紙を思い出す。もしかしてこの人は僕が何かの秘密を漏らさないでいるか監視しているのではないだろうか。

 警戒しながら立ち止まっていると、金髪女性はマスクを下にずらして笑顔を見せ、軽快な足取りで近づいてきた。まだ二十代前半くらいだろうか

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お読みいただき、ありがとうございます!

百万円ゾンビ(2稿−8)



 僕は口が固い。秘密は守る。念押しで百万円をもらうような秘密はない……はずだ。

「内密にしてほしいみたいですよ」
「何を?」

 首を傾げる。

 百万円だけではなく、誰かの秘密を握っている、そう考えたらとても居心地が悪くなってきた。
 はっとし、今この瞬間も僕が何か秘密を漏らさないか監視している人がいるのではないか、と不安になって背後を確認する。飲食スペースは比較的空いてて、テーブル席に

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百万円ゾンビ(2稿−7)



 膝の上のボディバッグに入っているものが、お金ではなく爆弾に思えてきた。今にもドカンと爆発するのではないか、と気が気ではない。一市民、一高校生の僕ができることは何か?

「警察に行きましょう」

 それが手持ちの駒で唯一指せる手である、というか手持ちに駒なんてないのだから、それしかない。そう思ったのだけれど、小此木さんは静かに首を横に振った。

「まだ早いよ。考えてから決めよう」
「まさか警

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明日もがんばります!

百万円ゾンビ(2稿−6)



 百万円だけではパンチが足りないと思ったのか、男はゾンビになって戻って来た。頭の中が疑問符で埋め尽くされていく。

 僕の混乱におかまいなしに、ゾンビが通りかかったカップルの男に抱きついた。

 二人の世界に闖入してきたことに腹を立てたのか、男がゾンビをどんっと突き出し、文句を言っている。が、ゾンビにコミュニケーションをする気はないようで、再び両腕を伸ばして接近を開始した。

 男はゾンビの

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百万円ゾンビ(2稿−5)



 小此木さんがしゃっしゃと鉛筆を走らせる。爽快な音と共に、テーブルの上のノートに写実的なタッチで男の顔が描かれていく。

「わたし、その人の似顔絵を描くよ」と小此木さんが言い出したとき、「どうしてまた」と首を傾げた。意味があるのだろうかと困惑していると、小此木さんが「来ると思うんだよね」と予言めいたことを口にした。

「気が変わったから、やっぱり百万円返せってこともありうる」
「そうなったら

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