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如月新一
2020年8月31日 06:00
3 傍に立っている男子生徒を見て、思わず息を呑んだ。 彼の白と黒が印象的だった。傷やにきび跡の一つもない白い肌、そして対照的な濡れ羽色をした柔らかそうな髪をしている。僕を見下ろす彼と視線がぶつかる。切れ長の二重瞼をしていて、冷たくも温かくもある印象を受けた。同情するように目を細め、安心を誘うような笑みを浮かべる。 中性的な顔立ちなのだが、精悍な男らしさがある。イケメンと言
2020年8月30日 06:00
2 十六歳、高校二年生の僕は犬を探している。探しているのは白い中型犬だ。家に帰り、犬が尻尾を振りながら駆け寄って来たら嬉しいだろう。家族が待っているというのは良いことだ。 だけど、僕は犬を、新しい家族を探しているというわけではない。 そもそも探しているのは他所の犬だ。「すいません、すいません」 校門のそばに立ち、下校する生徒たちに声をかけながら紙を差し出して行く。
2020年8月29日 06:00
1「殴られたことはあるか?」 十六年感の人生を回想しながら、「ない」と僕は答える。 子供の頃に父と母は離婚していて、父親から殴られたことはない。大らかな母親は僕を打ってしつけをしたことがないし、悪さをしないから先生の体罰を受けたこともない。 弱そうに見えるからいじめられかけたこともあるが、無視をするとか仲間はずれにするとか、嫌がらせをされるという感じだ。殴られはしない