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クビキリ(2稿-16)

        16

「そりゃ疑われて当然だよな。知らないふりをしていた俺が悪かった。本当にごめん!」

 森巣は合わせた両手の脇から、ちらりと申し訳なさそうに僕を見る。シラを切り通されるか、悪態をつかれるのではないかと思っていたので、この反応には虚をつかれた。つい、「いや、こっちこそごめん」と謝りそうになる。

 だが、誤魔化されないぞ、とまだ警戒を解かないように踏みとどまる。

「どうして知らないフリとか、嘘を吐いてたの?」
「クビキリ、嫌な事件だろ? だからずっと個人的に調べていたんだ。地元で起きた事件だしね。で、平がクビキリの犯人を見たって言ったのを聞いて驚いた」
「うん、まあ、驚くよね」
「で、詳しく話を聞きたいと思ったんだ。だけど、平は話してくれるかな? と不安になったんだよ」
「どうしてさ」
「学校でクビキリの発見者がいる、っていう噂は聞かなかった。つまり、自分が発見者だ、って吹聴するタイプじゃないんだろうなと思ったのさ」

 確かに、僕はクラスメイトにも先生にも話をしていなかった。うん、そうだね、と頷く。

「体験談を聞かせてよと言ってくる、ほぼ初対面の生徒なんて野次馬にしか思えないだろ? そんな奴を相手にしてもらえるか? って気になったんだよ。ならいっそ、全部知らないフリをすれば、危ない事件が起きてるから注意をした方がいいよ、って丁寧に教えてもるんじゃないかと思ったんだ。俺は嘘を吐いて、平から話を聞き出そうとしていた。認めるよ。ごめん!」

 そう言って、森巣が深々と頭を下げる。話を聞きながら、もし、と考える。もし「クビキリの犯人見たんだって?」と言われたら、話をするだろうか。不愉快な情報の伝播、それはクビキリ犯の狙いの気がして、きっとしないだろう。

 無邪気で無防備に見えた森巣にだからこそ、詳しく話をした気もする。
 なんだあ、と自分の体が脱力していくのがわかる。「でも、嘘を吐かなくてもよかったのに。変に勘ぐっちゃったよ」

「本当に悪かった! だけど、犬はまだ無事だと思うよ」
「なんでそう思うのか、そろそろ説明してくれないかな?」
「それはまだ--」
「ちょっと一方的すぎない? 僕も喋ったんだから、森巣もそろそろ喋ってくれないかな? フェアじゃないよ」

 すると、言うか言うまいか逡巡するように宙を眺めていたが、森巣はわかったよ、と観念した様子で肩をすくめ、僕に向き直った。

「殺された動物は猫が三匹に、兎が一匹。猫は野良猫かもしれないし、飼い猫かもしれない。だけど共通点がある」
「共通点?」
「小学校で兎の名前を聞いた?」
「聞いたよ。確か、パランだった」
「パランっていうのは、韓国語で青って意味なんだよ。白い兎なのに、なんで青って名前なんだと思う?」

「そんなこと」わからないと言いかけて、はっとした。瀬川さんの犬の名前も、マリンだ。森巣が自分の目を指差している。
「そう、目だよ。右目だけ青かったから、パランにしたらしい。犯人は、オッドアイの動物を狙ってやってるんだ」
「僕の見つけた白猫もオッドアイだった!」
「一匹だけ確認できていないけど、四匹がオッドアイ。偶然、とは思えないだろ?」

 確かに、そこには何か意味があるように思える。うんうん、と力強くうなずきかえす。

「で、なんで瀬川の犬が生きてると思うのかに戻るんだけど、動物を殺したいと思ったとき、オッドアイの動物を探しても、すぐに見つかるとは限らない。だから、盗んできてしばらく飼育してたんだと思うんだよ」
「小学校の兎は、発見までに一週間かかった。だから、マリンちゃんもすぐに殺される可能性は低いってこと?」
「そういうこと」

 なるほど、納得だ。僕が右往左往している間に、森巣はそこまで見抜いていたのか。競走をしているつもりはなかったけれど、森巣はずっと前を走っていたようだ。能力に対する嫉妬よりも、寂しさを覚える。

 だけど、問題はまだ解決されていない。

「森巣、じゃあさ、あの袋小路から犯人はどうやって消えたんだろう?」
「無理だね。そもそも、人間も犬も消えるわけがない」
「僕は、右の家に逃げ込んだんだと思うんだけどなぁ」
「平、犬はあの曲がり角で拐われてなんかいないよ」

 森巣が何を言い出したのかわからず、きょとんとしてしまう。

「マリンちゃんは拐われてないっていうのか?」
「いや、拐われてはいる」
「森巣が何を言ってるのか、さっぱりわからないんだけど」

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作家です。著作『放課後の帰宅部探偵 学校のジンクスと六色の謎』 読んでる間は楽しくて、読み終わったら何かが残る、面白い小説が好きです。 http://papermoon.gloomy.jp/index.html

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