遠野物語感想

あなたの隣の世界『遠野物語 remix』

読書感想文3冊目

『遠野物語 remix』(京極夏彦・柳田國男)

12月になり寒い季節になってきたが、こういうときに知りたくなるのが怖い話だ。夏にヒヤリとするよりも、冬にゾクリとする方が好きだからである。

2つ上の兄がホラー大好きで、私は小さい頃からホラー映画を一緒に観させられてきたし、兄の買った本を読んでいたので、中学までずっと角川ホラーばかり読んできた。貞子もチャッキーもエイリアンもジャック・ニコルソンも子供の時に味わった。「あなたの知らない世界」を夏休みに観るのが楽しみだった。

だがしかし、ホラーを摂取してくると怖くなくなってくる。ここで事故があったからとか理屈が通るとハイハイ地縛霊パターンね、と思える。ビックリした!? にビックリしなくなる。ホラーゲームもゾンビや幽霊と戦えると怖くなくなってしまう。戦えちゃだめなのよ、怖くなくなっちゃうんだもの。

不思議な体験をしたことがあるから怖い話を嘘だと否定しないし、ホラー作品は大好物だ。だが歳と共に、昔のように怖さを感じなくなっている。そんな折、編集さんから「ホラーものを書いて下さい」とお話を受けた。

ホラーは大好きだが、自分が書いてみようとは思わなかった。どうしたものかと考えて、自分が何を怖がっているのか? を考えてみることにした。

例えば事故で死に、地縛霊になって人を襲っているという話があったとする。構成で、なにかトラブルがあり、後から事故で人が死んでいたとわかることで原因の補強をすることはできるだろう。

だが、幽霊は果たしてそんなことをするだろうか? 

いやいや、それをするから幽霊が怖いのではないか、と思うかもしれない。が、歳をとったせいか、幽霊は生きていた人間だろう? と強く思ってしまう。怖がらせる為だけに、死んだ人間をおもちゃにしていいのか? と思ってしまうのである。

交通事故はあったよ。でも、それはこの交差点じゃないよ。

こうなってくると、個人的には怖くなる。事故は関係ないのかよ? じゃあ、あれは一体なんだったんだ? となる。あれは幽霊ではない。幽霊じゃない何かはこの世に存在しているのではないか? 問題は解決されないじゃないか。わかりません、降参です、勘弁してください、となると怖くなる。

私はホラーが大好きだ。どうなってしまうんだろう? というサスペンス展開もそうだが、人知の及ばない領域コミュニケーションの取れない相手に恐怖心を抱くのである。

というわけで、私は人の道理では説明のつかぬ話が好きだ。柳田國男の『遠野物語』は好みドストライクなわけである。

『遠野物語』は岩手県の遠野地方に伝わる逸話を、小説家の佐々木喜善が語り、民俗学者の柳田國男が筆記・編纂したものだ。『遠野物語 remix』は小説家、京極夏彦によってリミックスされたものである。

リミックスってなんやねんという感じだが、読んでみるとわかる。文体や語られ方、話の繋がりも意識されて順番が変わっている。ザックリ言うと、京極夏彦の手腕によって、大変読みやすくなっている。

内容は有名どころで言うと、河童や座敷わらし、山男や迷い家などが出てくる。それ以外にも、これは一体どういうことかしら? という不思議な現象が語られている。
登場する不思議な存在には、人のあずかり知らない道理があるようで、上手くコミュニケーションを取れない。彼らには彼らの世界があるのだ。知らない世界はなんだか怖い。
一つ一つのお話が上手い! とは思わない。だからこそ、不思議な話だなぁとしみじみする。

数十年、山で猟をしてきた男が、白い鹿を見つける。
白い鹿は神であると言われているが、ここで逃げたら猟師じゃないぜ、と銃を撃つ。鹿に当たったが微動だにしない。おそるおそる近づくと、鹿ではなくて白い岩だった。
長年猟師をやってきた男は、このときばかりは猟をやめたほうがいいと思った、と語る。

なんだ、ただの見間違いだろ? そう思うかもしれないが、私は人の手には及ばぬ領域があり、それが誇示されたのではないか? と思う。
この世界の全てを人が全て説明できると思うのは、驕りではないだろうか?
なにより、そう思った方が怖いじゃないか。

理屈の通らぬ現象や、人ならざる者、人の手には負えない領域はある。好奇心をくすぐられ、そうして怖い思いをするのである。それはきっと、遠野地方にだけあることではない。今も、すぐそこにある世界なのではないだろうか。

今、あなたの隣を歩いていたのは、本当に人だったのか?

『遠野物語 remix』以上ッ!
ではではまたまた

ちなみに、ホラー小説だと、津原泰水の「酔歩する男」や日日日の『ちーちゃんは悠久の向こう』なんかが大好きだ。
読み終わっておしまい、ではなく、読み終わってからの現実が怖くなるので、たまらない。


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如月新一
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