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第37話「人生で何かを不意に理解する瞬間」

        キング12

 グラウンドの特設ステージのそばに、運動会の本部が使っているような屋根つきのテントが張られている。片方が男子、片方が女子、ということだ。ハートのキングの参加資格を持つ、ミスターコンとミスコン候補者が待機している。それぞれ五、六名ずつという感じだろうか。

 反対側のテントにいる、ミス苺原高校の小南の姿を見つける。俺がミスターになるのも番狂わせだったと思うが、まさか小南がミスになるとは思っていなかった。俺と仲良くしてくれるという時点で、寛容な性格をしているし面倒見も良いし、クラスでの活動もこまめにしている。人気があるかもしれないと思っていたが、学校一になるとは思っていなかった。

 小南は誰に、思いを伝えるつもりなのだろうか。

 ……いや、感づいてはいる。

 それで、彼女が本当に文化祭の外に出られるのだろうか。

 小南には借りがある。その借りを返す為だ。おそらく、俺が小南に声をかければ、小南の言う文化祭ループから出ることはできる。

 溜息を吐き出し、小南を見やる。

 女子生徒たちの列の中に小南は混ざり、ぼーっと遠くを見つめていた。鳥でも飛んでいるのだろうか、と振り返ってみるが、なんてことはない夕焼け空が広がっているだけだった。

 向き直ると小南が俺のことを見ており、くすくす笑っている。俺がこの場にいるのがおかしいのだろう。むっとしながら、いい気なものだなと文句を言ってやりたくなった。

 司会者に呼ばれて、今度は隣の男子生徒が屋上ステージの上に向かって行った。

「二年五組の山本未央さーん!」

 彼の声が虚しく響き渡る。何度か山本未央は呼ばれたが、返事をする気がないのか、ハートのキングに興味がないのか、司会者の「残念! 時間切れです!」という声で終了した。

 とぼとぼとした足取りで、こちらに戻ってくると、彼はそのまま校舎の中に姿を消した。

 今度は女子の番だ。司会者が、女子のテントへと向かう。ぼーっと見ていたら、ボブカットの女子生徒一人が、明らかに緊張した面持ちをしていた。

 司会者に促され、期待と不安の入り混じった顔をして、マイクの前に移動する。

 見覚えがある。文化祭実行委員の後輩だ。なんだか意外だった。彼女に好きな人がいるのか、ということも意外だったし、こうして人前に立とうとしているのも意外だった。

 人生で何かを不意に理解する瞬間がある。

 それが今、訪れた。

 彼女は恋をして、自分が主役だと思っている。そりゃ、そうだ。彼女の人生の主役は、彼女しかいないのだから。結果がどんなものであれ、彼女の選択によって生まれたのなら、それは肯定されるべきものだ。

 だが、このイベントはなんなのだろうか? 小南はこのイベントのせいでループをしているという。人前で告白をすることが、そんなに重要なことなのだろうか? おまじないだからか? 誓いを立てることになんの意味があるんだ? 重要なのは結果じゃないか。

 落合と野茂はこのイベントがきっかけで付き合うことになったと話していたが、俺にはなんだか白々しく思えた。

 そのとき、はっとした。

 俺は真相を聞いていた。

 なのに、そのことを聞き流していた。

「それじゃあ、皆様お待ちかね、ミスター苺原高校の森谷公平さん、前へどうぞー!」

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如月新一
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