第18話「この学校の裏伝統行事」
クイーン6
いつも教室で見ているのに、いざというときに全然見つからない。
なぞなぞじゃない。答えはただの同級生だから。
メッセージアプリで連絡も入れたが、返ってこない。校内を歩き回り、リンダの姿を探す。屋体ストリートにも、メインステージのそばにもいなかった。学生食堂にいないだろうか? と混雑している中で視線を泳がせる。
腕時計を見る。すでに二時三十分以上経過している。時計の針が動くたびに、胸の中で焦りも加速していく。
学生食堂の二階へ上がると、テーブル席に足を広げて我が物顔で座る六人の男たちがいた。大学生くらいだろうか。金髪や派手な柄のシャツが、どこか物騒でおっかない。
その中、傍らに立つリンダの姿を見つける。
ふっと一呼吸置き、彼らにむかってずんずん進む。
目の前で立ち止まると、六人が会話を中断して顔を上げて僕を見た。警戒の色が滲んでいる。
「リンダ、探したんだぞ」
「うわっびっくりした」
リンダが体をのけぞらせて、僕を見る。何故そんなに驚くのか。やましいことがあるからではないか。
「リンダ、そいつは誰だ?」
黒いタートルネットを着た男がリンダに訊ねる。
「クラスメイトですけど」
答えたリンダが、僕と男たちの間に視線を交錯させる。
みんな、こう思っているはずだ。「何の用だ?」
「あなたたちがやっていることについて、知りたいんです」
柄の悪い六人の視線がリンダに集まり、リンダが両手をあげる。
「なんのことかわかりません。俺は、喋ってませんよ」
「林田、そいつはお前と親しげで、俺たちがやっていることについて知りたいと言ってる。なのに、お前は喋ってないって言うんだな?」
「そうです。なにがなんだかわかりません」「じゃあ、なんでそいつはここに来たんだ?」「わかりません」「わかりませんばっかりだな」
タートルネックが視線を移し、僕に視線を移す。
「直接訊くしかなさそうだな。お前さんは何しにきたんだ?」
「この文化祭で、ギャンブルが行われてるんじゃないかと思ったんですよ。それに、あなた方が関係している。違いますか?」
タートルネックが、周囲の男たちを見回してから、ゆっくり口を開いた。
「どうやって、たどり着いたんだ?」
「リンダが持っていたボードで、もしかしたらと。それに文化祭でミスコン候補者に嫌がらせが起きていて、ミスコンに響くような妨害そのものが目的なのかなと」
リンダがボードを作り、シールを貼ってもらっているのは、オッズを作るためなのだろう。
「林田、お前が目立ったせいじゃないか」
刺すような視線を向けられた林田が、怯えた様子で首を引っ込める。
「このことは他言無用にしろよ。この学校の裏伝統行事なんだ。ミスター、ミス、ハートのキングが誰になるかで賭けをしているんだ」
やはり、ギャンブルが行われていた。
「俺は四年前の親だ。花柄は三年前、メガネは二年前、金髪が去年の親だ」
「親?」
「ゲームが公平に行われるように、取り仕切る役目だ。じゃないと、いかさまが行われるからな。毎年、何かしらの事件がある。今年もそうみたいだが」
そう言って、ちらりと金髪に視線を送る。
「大丈夫ですよ。俺が見込んだ奴です。今年も安全に行われますよ」
金髪が自信満々に返事をする。褒めてくれ、と胸を張る子供じみて見える。
「天宮先輩を脅迫してるのは、あなたたちですか?」
「言っただろ。ゲームにいかさまは許されない。だから、そんなことをしない。それに、俺たちはもう卒業して引退している」
学校のイベントでギャンブルをしていた彼らのことを、信じていいのか判然としない。
だが、彼らのいうことが本当ならば、ミスコンで天宮先輩が優勝しない方に賭けている者が犯人、ということになる。
「ギャンブルに参加している人が誰かはわかりませんか?」
「それは、今年の親しかわからねえなあ」
「親を教えてもらえませんか?」
「そいつは無理だ。何があっても、無理なんだ」
リンダが、申し訳なさそうに言った。だとすると、その親を探し出すしかないだろう。賭け事を邪魔する輩がいると話をすれば、情報をくれるかもしれない。
「もう一つ訊きたいんですけど、いいですか? 文化祭の間、ずっとここにいるんですか? その、見て回ったりとか」
なんとなく気になったので訊ねてみたら、タートルネックは可笑しそうに笑った。
「文化祭なんて、当事者以外楽しくないだろ」
じゃあ、何しに来てるんですか。
いつまでも楽しくない文化祭に居座って、ギャンブルをしているあんたたちの方がどうかしてる。
そう思ったが、馬鹿馬鹿しいので口を開かず背を向けた。
僕にはやるべきことがある。