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第26話「反撃は大好きよ」

        クイーン8

 以前、同級生に教えてもらった通り、図書室には小柄な女の子と、彼女の傍に立つ助手然とした、男子生徒の服を着た女子生徒がいた。なんだか取り込み中の様子だったが、カウンターの中に案内される。

 彼らは本当に生徒から依頼を受けて謎を解いてくれるのだろうか。

「ミスコン候補の天宮静香さんが、こんなところに何の用だい?」
「わたしのことを知ってるんですね」
「野球に詳しくなくても、大谷は知ってる。そういう感じだよ」

 針ヶ谷さんは椅子に背を預けて、それで? と話を促してきた。

「僕ら、昨夜学校に泊まったんですけど」
「佐野くん、聞いたかい? スキャンダルってやつだね」

 佐野さんが目を剥き、天宮先輩は、ぶんぶん首を振った。

「言い方があるでしょうが!」
「ごめんなさい」

 天宮先輩に叱られ、僕はドレスが破られたことと、机の上にあったペットボトルを飲ん眠ってしまった。嵌められたと気付き、部室に隠れていた、と。

「針ヶ谷さん、睡眠薬ってそんなに効くものなのかい?」
「睡眠薬にも種類があるけど、超短時間作用型の薬は本当にすぐ眠気に襲われる。ロッカーの中なんて、眠り心地のよさそうな場所じゃないし、一服盛られたと考えていいだろうね。それに、犯人にとってはたんなる罠の一つだったんじゃないかな」

 天宮先輩と視線を交わす。彼女の目には安堵の色が生まれていた。

「二人が待ち伏せをすることを、誰かに漏らしたかい?」
「クラスみんなの前で、わたしは考えがあるって言っちゃいました」
「それでドレスをそのままにして帰ろうとしたんなら、二人は待ち伏せでもするのかな、と思うね」
「でも、それは確実な方法じゃないんじゃないですか?」
「確実じゃなくてもいいんだよ。さっきも言ったけど、罠なんだ。他にも、教室にはなにか仕掛けられていたかもしれない」

 なるほど、と引き下がる。「あと、天宮先輩は脅迫を受けていたんですよ」と付け加える。

「脅迫?」
「はい。実は、今朝もクラスに脅迫状が届いていて。合計三枚」

 そう言って、天宮先輩はブレザーのポケットから折りたたんだ手紙を取り出した。最初の二枚はシンデレラの劇に出るな、という旨のメッセージだ。

 しかし、今日見つかったという脅迫状は、今までとは違う不思議なものだった。

『警告を破った罰を受けてもらう
 ハートのキングで、ミスターに告白をしろ』

 ぐにゃぐにゃ文字の手紙を観察するように、針ヶ谷さんは静かに指を這わせ、佐野さんが顔をしかめる。

「昨日、文化祭実行委員でドレスを切り裂かれたとは聞いていたけど、脅迫状まであるとはね。これもジャックの仕業なのかな」
「ジャックってなんですか?」

 質問を投げかけると、二人は目配せをして小さく頷いた。

「内密に頼むよ。実は、文化祭をジャックしたと言って悪戯をしまくっている輩がいるんだよ」

 絶句する。

 昨日の放課後や今朝の風紀委員の会議ではなにも聞かされていない。

一体、この文化祭で何が起こっているのか。僕らの通う学校に、怪物がうろついるような不気味な気配を感じた。

「実はぼくたちはジャックを追っていたんだ。でも、昨日は負けた。ひどい目にあった――そんなぼくたちだけど、依頼をしてくれるかい?」

 天宮先輩と僕は同時に頷いた。

 一瞬、安堵の表情を浮かべてから、針ヶ谷さんは机に肘を置き両手を組んで、顔の前に持っていった。顔つきは真剣そのもので、小柄ながらも貫禄が生まれる。

「ぼくなりに、ジャックの目的を考えていた。まず、ジャックが天宮さんに脅迫状を出したのは、人気が出ることを防ぐためだと思う」
「天宮先輩個人のですか? 劇の人気を下げる為ってことはないですか?」

「衣装の管理はちゃんとされていたから、犯人は誰もいない教室の中に入ったということ。つまり、劇の公演できなくさせることが目的なら、セットを壊すはずだよ。だけど、それをしなかった。何故か。その手紙の通り。天宮静香を劇に出さないことが目的だからだよ。天宮静香の人気がこれ以上、上がらないようにするのが目的なのさ」

 針ヶ谷さんはかなりの切れ者だ。僕らが知っている情報にあっという間に近づいた。

「つまりミスコンで優勝できないようにする為だ。おそらく、ミスコンとかハートのキングでギャンブルが行われている。ハートのキングでミスターに告白をしろっていうのも、狙いがあるんだろうね」

 佐野さんが、眉をひそめて「そんなことがあるのかなぁ」とこぼす。

「あります。それについては、裏が取れてるんです」

 どういうことか、と視線が集まる。彼らにも毎年恒例の裏行事としてミスコン・ミスターコン・ハートのキングでギャンブルが行われている、という説明をした。

「ほらね」と針ヶ谷さんが不敵に笑い、
「そんな」と佐野さんが唖然としていた。

「人気者も辛いわね、と言えばいいところかしら?」
「そのくらいの余裕があると助かるね。なにせ、天宮さんにはこれから反撃に出てもらうことになるから」
「反撃は大好きよ」

 佐野さんが、頼もしいねと針ヶ谷さんに笑った。気さくな冗談、とは僕には思えなかった。勝気な天宮先輩が無茶をしないか心配だ。

「相手がして欲しくないことをすれば、きっとまた妨害が入る筈。つまり、天宮さんの人気が上がるようなことをしようと思う」

 真相に近づくだけではなく、何をするべきかどんどん道が生まれていく。

 やはりここに来てよかったですね、と天宮先輩を振り返る。

すると、何故か天宮先輩は冷たい顔をしていた。

「狭間、ここであなたの仕事は終わり」
「え?」
「ボディガードの任を解くわ。今までありがとう。お疲れ様」
「僕も手伝いますよ」
「わたしは、わたしで針ヶ谷さんたちと反撃に出る。あなたはもう大丈夫」
「今日も守るって、僕は約束しましたよ」
「悪いんだけど、ハッキリ言ってもう必要ないの。これ以上、つきまとうのはやめて。それとも、私とちょっと仲良くなったって勘違いした?」

 理解が追いつかなかった。

「なんですかそれ」

 確かに昨夜は、ちょっと険悪な雰囲気になったが、根に持っていたのか? そこまで言われるとは思っていなかった。

「あなたの贖罪に、私を利用しないで。私を助けても、あなたの罪が消えるわけじゃない」

 言葉が、ぐさりと音を立てて僕の胸に刺さった。

 天宮先輩の言う通り、僕は天宮先輩を助けたいと思っていたわけではなく、許されるために彼女を利用していたのかもしれない。反論ができなかった。

「天宮先輩をよろしくお願いします」

 ちらりと天宮先輩を一瞥する。

 もう僕のことを見てもいなかった。

 

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