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第17話「騙されてるのってかわいい」

       キング6

 校舎を出て並木道を抜ける。占いの教室を出た俺たちは、演劇をやっている田淵に会いに行き、協力を仰いだ。田淵は人気のない方へどんどん進んでいく。

「おい、どこに向かってるんだ」
「森谷が脅迫をするから案内してるんでしょ」
「人聞きが悪い。秘密をばらされたくなかったら俺にも紹介しろってお願いをしただけだ」
「脅迫じゃんか」

 その後も田淵はぶつぶつ言っていたが、俺と小南は黙って田淵の後に続いた。小南が不機嫌になっているのがわかるから、そっちはあえて見ないようにしている。

 ハートのキングが細切れになっているとわかった今、どうすばばいい?

 贋作を作る。

 文化部部室棟の角を曲がり、三年校舎の方へ向かうと、そこにあったのは小さなテントだった。オカルト研究部と血文字で書かれた看板が貼り付けられている。絶対に入りたくない、と思ったが、田淵は「梅子《うめこ》、入るよー」と言ってテントに頭をもぐりこませた。

 中を覗き込む。漢方でも入っていそうな小さなタンスの上に、イヌ科と思しき頭蓋骨が乗っている。他にも、風水羅盤にタロットカードやUFOの模型など、胡散臭いものがテントの中に溢れていた。

 ゴミとしか思えないものに囲まれて、座布団の上にちょこんとローブを羽織った女子生徒がいた。

「貴方がたがここに迷い込んでくることは知っていました。お入りなさい」
「梅子、そういうのいいから」
「せ、折角乗ってたのに」

 急におどおどした話し方になり、纏っている空気や態度もがらりと変わった。

「で、その人、誰?」
「二年の森谷。梅子に頼みがあるんだって」
「わ、わたしに?」

 前髪の影から、怯えた様子でこちらを窺ってくる。

 頼みはある。が、その前に知りたい。

「ここで何をしてるんだ?」
「お、オカルト研究部」

 この生徒はオカルト研究部なのか。申し訳なさを覚えるくらい、しっくりくるなと思ったところに、

「の真似」と言葉が続いた。
「真似?」
「オカル研究部がないから、オカルト研究部を作ってみたの」

 意味が分からず、田淵に助けを求める。

「この学校にオカルト研究部なんてないの。梅子は演劇部の美術担当。文化祭の間、オカルト研究部っぽいものを作って、ここでこうやってオカルト研究部ごっこをしてる」
「何の為にだよ?」
「た、楽しいから」

 岩を引っ繰り返したら蠢いていそうな、暗くてじめじめした笑い声をあげている。

「実は頼んだ生徒会のハンコ、森谷にバレたの」

 テントの中でピンと空気が張り詰めるのを感じる。梅子がさっと視線を俺に移した。不安と緊張と、何やら憤りの視線を感じる。

「なんでバレたの。どうして」

「ハンコ自体は完璧だった。本物と全く同じに見えるし、不自然なところは何もない。ただ、生徒会に知り合いがいるんだがな、ハンコをなくしたんだと。文化祭の間は使わないからいいだろうって言ってた。つまり、ハンコはないんだ。なのに、新しいものが押された。つまりは偽物ってわけだ」
「そんなん無理じゃん。バレるじゃん」

 梅子が、鼻息を荒くし、唸り出す。

「贋作を作るお前の腕は間違いないし、誇っていいくらいだと、俺は思うね」
「そ、それは当然」
「で、それを見込んで一つ頼みがある。イベントで使うハートのキングは知ってるか?」
「見たことないけど知ってる。古いトランプだって」
「写真がある」

 前に委員会の同級生から、縁起物だから待ち受けにしたらどうだ? と送られてきた。スマートフォンを取り出し、梅子に画面を向けた。

 興味があるのか、梅子は顔を上げ、写真をじっと見つめていた。黄ばみ、古ぼけたようなトランプで、普通のハートのキングは剣を持っているのだが、これは薔薇の花束を持っている。

「これを作ってもらいたい」

 白くて細い腕が伸びてきて、長くて綺麗な指がスマホを取り上げた。眼前に持っていき、目を凝らして観察している。

「じ、実物は?」
「持ってない。その偽物を、今日の三時までに作ってもらいたいんだ」
「や、やる」
「お前に断ることは――やるのか?」
「やる。俄然やる」

 断られたら、ハンコの偽造をだしにして協力してもらおうかと思っていたので、勢いが削がれた。だが、不都合なことは何もない、ありがたい展開だ。

「ちょっと梅子、やれるの?」
「や、やれるよ」
「でも」
「田淵、邪魔をするなよ」

 それでも心配そうに田淵は梅子の顔色を窺っていた。梅子がはたと、何かに気づいた顔をして、田淵を見る。

 二人が視線を交わし、無言の相談を始めた。田淵が何かを懸念し、梅子がそれに対して考えているように見える。一度引き受けたんだからな、と口を開きかけたが、先に梅子が声を上げた。

「やる。だって面白そうだから」

 袖を引っ張られ、視線を移すと、小南がむっとした顔をしていた。

「そんなことしても、うまくいかないよ」
「やってみなければ」と言いかけて、「わからないだろ」という言葉を飲み込む。

 小南にはわかっているのか?

 選択肢、という太田原の言葉が思い浮かぶ。

 小南の言う通りに行動し、ミスターコンテストを回避するか、贋作を作って誤魔化し、ミスターコンテストを回避するか、という二枚のカードが手元にある。

「ハートのキングが見つからない以上、贋作用意するしかないだろう」
「他にも方法はあるよ」
「どんなだ?」

 小南が返答に窮している。もしかすると、俺をミスターに出さない策があるというのは嘘なのかもしれない。小南にとっては十三回目の文化祭であるから、俺を騙してでも自分が文化祭から脱出できないか色々試してみようと思ったとしても、責められないだろう。

 だが、俺は絶対にミスターコンテストなんて出たくはない。

「贋作を頼む。どのくらいで出来そうなんだ?」

 梅子が真剣な表情で写真を眺める。

「一時間」
「わかった、じゃあ一時間後に取りに来る」

 これで、ミスターコンテストなんてふざけたイベントに出なくてすむぞと、内心でガッツポーズを取る。

 俺が嬉しいのはわかるが、やけに嬉しそうにしている梅子が気になる。何か企んでいるのではあるまいな。

「なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
「わたしの作った偽物を、みんなが本物だと思うのはなんだか楽しい。騙されてるのってかわいい」

 狭いテントの中に、陰気な笑い声が響いた。

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