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第38話「彼女こそ、無敵の女王」

       クイーン12 

 コンコン、というノックの音と共に、扉が開いた。水柴先生が顔を上げ、そちらに視線を送る。

「あのー、困ってるんですけど」

 そう言って現れたのは、美夏ちゃんだった。彼女は呆気にとられている僕を一瞥すると、水柴先生に向き直った。

「どうしたんだ? 迷子か?」
「消火器」
「消火器を倒しちゃったら、大変なことになったんですけど」
「おいおい」

 水柴先生が扉の外に出て行く。「なんじゃこりゃあ!」と聞こえてくる。

「何が起こったんだよ!」「だから、倒しちゃったんですけど」「ああもう、これは」

 水柴先生が部屋に戻ってきて、僕らを見据える。

「ちょっと外に出るが、いいか? 絶対にここから出るんじゃないぞ!」

 そう言い残してどこかに走って行った。

 入れ替わりで、美夏ちゃんが再び、部屋に戻ってくる。

「これでいいの?」
「助かったよ。ありがとう」
「昨日のお礼だし、お兄ちゃんの頼みだからしてあげたんだから」
「恩に着ます」

 そう告げて、僕は部屋を飛び出し、グランドへ向かった。

 どうか間に合ってくれ、と思いながら人混みを搔きわける。僕は一体、何をしようとしているのか、自分でまだわかっていない。ただ、このまま、あの部屋でじっとしていたくなかった。

 僕には、天宮先輩は特別な人だった。

 特別な人に、伝えたいことがあった。

 グラウンドに辿り着くと、ステージの前に聴衆が群がっている。応援する人、好奇心で見る人、若いっていいなぁと見守る人、胸に想いを秘めたままステージを見つめる人もいるだろう。

 ステージ上の天宮先輩は、いつもと変わらぬ、凛とした佇まいをしている。ミスコンで敗北をしても、胸を張っている。

 彼女こそ、無敵の女王だ。

そわそわする様子を見せることなくじっと対面する男子生徒を見ていた。自分の胸が握りつぶされるように苦しくなった。僕の胸を握りつぶす、その手の主が誰かはわかる。天宮静香だ。

「それじゃあ、皆様お待ちかね、ミスター苺原高校の森谷公平さん、前へどうぞー!」

 司会の男子生徒が早口でそう言い、右手を高く挙げた。森谷先輩は司会者を不機嫌そうに一瞥すると、歩き出した。マイクを素通りし、女子生徒の列の前まで移動する。

「天宮静香さん、ちょっと来てほしい。話がある」

 森谷先輩がそう言って、ステージの中央へと天宮先輩を呼び寄せる。天宮先輩は、意外そうな顔をしたが、そのまま森谷先輩の前までゆっくり移動した。

 二人が何か話をしている。それを見ながら、僕はわけがわからないまま、どんどん人を掻き分け、前へ駆け出す。

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