天国エレベーター(初稿−12)
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天国エレベーター(初稿−12)

       12

 僕はこの世からいなくなるのだろか。残された人は平和に暮らせだろうか。僕はいなくなるが、友達は助かった。きっと彼は僕の家族や友人たち、そして困っている人も目にしたら助けてくれるだろう。

 勝手に期待を押し付けるな、そうしかめ面をしているのが目に浮かぶ。
 これから彼はどうなるのだろうか、彼は人としてどうかしているところもあるから、この先が心配だ。喧嘩もしたし変な奴と関わってしまった。
 それでも、僕は彼との時間を楽しんだし、結構気に入っていた。そう思う。

 青白い光に照らされて森巣が足を組んで椅子に座り、僕を見つめている。絵画の中から出て来たような存在に、見惚れていいのか笑った方がいいのかわからない。

「もしかして君も死んだのか?」
「俺が死ぬわけないだろ。お前は何を言ってんだ」

「どうして」そう言いながら体を起こすと、頭を締め付けられるような痛みがして、顔をしかめる。揺れている船の中にいるみたいに目眩と吐き気がして、体に力が入らない。周りを見ると、ここはさっきまでいた図書室だった。

「超短時間作用型の薬は、すぐ効く代わりに持続時間が短い。前にも説明しただろ」

 前、いつだ、と思い返しながら、今の状態に似た感覚を思い出す。クビキリ事件の調査をした際に、犯人に睡眠薬を盛られた時だ。

「毒じゃなくて、睡眠薬が入ってたのか」
「そうだ。あんなものは賭けでもなんでもない。二つともに薬が入ってたんだ。睡眠薬は飲んでいれば耐性ができるからな。滑川は耐性を作っていたんだろう。まあ、それでも時間稼ぎにしかならなかっただろうけどな」
「どうして睡眠薬だってわかったわけ?」
「あっさり殺すわけがない。それに、もし滑川が平を殺すなら絶対に明日だと思ったからだ」
「なんで明日?」
「俺なら明日にする。毎年必ず思い出すだろうからな」

「なるほど?」よくわからないまま返事をし、鈍い思考の中で咀嚼しながら、新たに浮かんで来た疑問をぶつける。

「睡眠薬入りを滑川は一つ僕と食べたって知ってたなら、賭けに乗らないで時間稼ぎすればよかったんじゃないか? そうすれば、勝手に眠っただろ」
「まあな」
「どうして」
「どうして? そんなのぶん殴る為に決まってるだろ」

 シンプルな理由だったし、納得した。が、聞きたいことはまだまだある。

「なんで入院着を着てるの?」
「それは平が襲われて入院したと知って、すぐに俺もここに入院したからだ」
「ここは旅館じゃないんだぞ」
「ああ、金を積んで入院するようにしたのは、良心が痛んだ」
「なるほどね。なんとなくわかってきた」
「じゃあ、説明をしなくていいな」「いいや、説明はしてくれ」

「明日じゃダメか?」「今してくれ」

 絶対にだ、と刺すように視線を向ける。森巣は煩わしそうに頭をかきながら、手を組んで僕を見た。

「まず平が襲われて、タクシー運転手に病院に運ばれたと聞いた時点で、これには裏があるとわかった。頭を打たれてるのに、救急車を待たないで運ぶバカがいるか? つまり、この病院に平を入れたいんだとわかった。言いにくいが、思いつくのは滑川が俺を誘き出す為だ。俺はあいつの仕事をいくつか潰したからな」
「……続けて」

「滑川がどうして平を特定できたのかが気になるんだろ? それはまた言いにくいんだが、強盗ヤギの時に、俺がお前を店に連れて行ったせいだ。八木橋は制服姿の俺たちを見たから学校も特定できただろうし、あいつの前で名前も呼び合ったから、校門のそばに張り付いていれば見つけることができるだろう。だから、俺は学校に行かないで、別ルートで滑川のことを調べていたわけだ。食堂で、平が襲われたと言ってもそれについて訊ねなかったのを見て、確信した。何もかも知ってたんだな、と」
「……続けて」

「あとはそうだな、平が入院して人質状態になったわけだが、滑川が何かをするとしたら明日だということもわかっていた。だから俺は今晩仕掛けることにした。八木橋に俺は消灯後に図書室に忍び込んで隠れる、と偽の情報を流しておいたんだが、まさか平が先に滑川と鉢合わせになるとはな。だが、協力をしてもらったおかげで、無事に滑川を仕留めることができたわけだ」
「……続けて」

「全部話したぞ。これ以上、何を知りたいんだ」
「全部なわけがあるか」

 一番聞きたかったことを森巣はまだ話していない。

「どうして僕が襲われて、罠だとわかってるのに来たわけ?」

 森巣はすぐに答えず、俯いたり視線を彷徨わせたり、頬や口元に手をやったりしている。

「教えてよ」
「正直に言う。俺は今まで一人で戦って来た。だから、周りに被害が及ぶということを考えてこなかったんだ。それに、もし何かあっても、動じないと思っていた」
「それで?」
「平が襲われたという情報を知った時……動揺したんだ。巻き込んだことへの罪悪感、滑川に対する怒り、あとは」

 そうして口ごもりながら、表情を引き締めて森巣は僕を見た。

「お前がいなくなったらつまらなくなると思った」

 いつも飄々としている森巣が、そわそわと僕の様子を窺っている。
 森巣が逸脱行為をしているとき、本気で止めなかったし、加担したこともある。こうなったのだって、全て森巣の所為というわけではない。

「なるほど、わかったよ。助けてくれてありがとう」

 森巣が短く「そうか」と言って、素知らぬ顔をしてそっぽを向いた。彼は意外とわかりやすいタイプなのかもしれない。

「ところで、滑川は?」
「あいつなら、ほれ、そこに転がってる」

 森巣が顎をしゃくったので釣られて右を向き、ぎょっとする。そこには窓枠のパイプにベルトで繋がれている滑川がいた。

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如月新一

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明日もがんばります!
作家です。著作『あくまでも探偵は』『放課後の帰宅部探偵 学校のジンクスと六色の謎』 読んでる間は楽しくて、読み終わったら何かが残る、面白い小説が好きです。