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強盗ヤギ(初稿−14)

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 森巣は優しい口調でそう言って、オーナーを見据えた。

「俺はさっき、話し合いに交ぜてもらって、話を少し聞かせてもらいました。警察にも通報しないと約束をしました。弱いものいじめをしている感じじゃないですしね。でも、ここにいる平は約束をしていない。警察に通報するかもしれません」

 オーナーが目を剥き、ぎょっとして青褪め、狼狽えるのが見て取れた。口が呆けたようにぽかーんと開く。その開いた口あら「話が違う」であるとか「騙したな」と聞こえて来るようだった。僕は「通報しませんよ」と教えようとしたが、森巣の手がにゅっと伸びて来て、黙っていろと制止された。

「でも、俺だって、それは止めたい。オーナーの店を潰したいなんて思っていないんですよ。だあら、取引をしましょう」

「……取引、ですか?」とオーナーが敬語で森巣に訊ねる。森巣は、歓迎ムードを出すように、両手を広げて大きく頷いた。胡散臭いったらない、と僕は思いつつ、口を挟むことができず、二人のやりとりを見守る。

「強盗ヤギの○×マーク、俺はあれを見たことがあるんです。俺は個人的に、それを追ってるんですよ。強盗ヤギが何者なのか、俺にも教えてくれませんか? 知っている範囲のことだけを教えてくれればいいので。さっきの叶かのうさんに話していたことでいいんです」

 さっきの男は叶というのか、と思いつつ、オーナーを見守る。僕はまた柳井先生のときのように暴力で口を割らせようとするのではないかと、ひやひやする。よくわからないけれど、言うなら早い方がいいですよ、と念じる。

 拷問は趣味じゃないけど、趣味じゃないだけなんです、と森巣が言い出す気がする。

「拷問は趣味じゃないけど、趣味じゃないだけなんです」と森巣が口にし、手を握り、指を鳴らした。

 いじめっ子のような仕草だったが、ぽきりぽきりという肉体の鳴る音はそれなりに効果があったのか、オーナーは半ば放心し、心ここに在らずの様子であったが、しばらく経ってから深く息を吐き出した。呻くような声を発した後、今まで溜め込んできた我慢や不満を吐き出すような、長くて大きな息だった。

「君たちくらいの歳からの友達だったんだ」

 オーナーが語り始めるので、黙って耳を傾ける

「馬が合ってずっとつるんでいた。二人とも同じ高校、同じ大学に行った。別の会社に就職をしたけど、同じ時期に会社から早期退職を頼まれたんだ。それで、二人で夢だったカフェを始めることにした。半年ほど前に開店して、軌道に乗ったらそばにある蔵も改築してそっちも店舗にする筈だった。なのに」

 店の中を眺めるオーナーは目を細め、どこか夢を見ているような恍惚さを湛える笑みを浮かべていた。地元の人に愛され、繁盛し、活気のある店を切り盛りし、常連客と談笑をする、そんな姿を思い描いているのかもしれない。

「店の経営が上手くいかなくて、銀行から受けた融資を返せなくなった。甘かったんだ。一日に一人しか来ない日もあったし。おまけに、友人は裏カジノにハマって店のお金に手を出していた。全然気づかなかったよ。帳簿を任せていたし。借金もしていて、それが知らない間に膨らみ続けていた。そして友人とお金が消え、私と借金とこの店だけが残ったんだ。怖い顔をした借金取りの連中がやって来るようになって、このままだと、店を奪われる、そんなときだった」

 オーナーの言葉によって、店の温度がどんどん冷えていくような、そんな悲しさを覚えた。借金の苦しさは僕にはわからないけれど、友人に裏切られ、そして友人を喪失した悲しみは計り知れない。どうして? という思いに苛まれ続けているだろう。

「そんなとき、金融業者の一人が、滑川勝吾なめかわしょうごという男を連れて来たんだ。その滑川が、強盗ヤギビジネスをしていることと、うちの店を使わないかっていう話をもちかけられた。提案という形だったけど、私にはノーという権利もなく」
「滑川勝吾」

 森巣が暗記をするように、呟いた。ちらりと窺うと。目を剥き、口元を歪め、野性が溢れ出て来ているような獰猛な顔つきをしていた。

「その滑川は何者なんですか?」

 コツコツコツコツ、と音がする。森巣が机をリズミカルに叩いていた。外見はどんなか、どこにいるのか、経歴は、何歳なのか、と回答を促していく。

「わからない。連絡も一方的だし。ただ、三十代だと思うんですけど、若く見えた。部下を従えていて、金融業者の人は一目置いているような感じで。半グレっていうのかな、あの手の輩は」

 オーナーは、自分も犯罪集団に巻き込まれた被害者なんですよ、と言わんばかりに、眉を曲げ、口をすぼめて話をした。森巣に訊ねられ、借金の額や金融業者の名前を答えている。

「滑川は周りから《商人》と呼ばれていましたか?」
「滑川さんって呼ばれていたけど、胡散臭いビジネスマンって感じだったかなあ。自信満々の目つきで、ツーブロックの髪型が嫌味な感じで。あっ、なんだかヤバいものを扱っているみたいな物騒な話し声も聞こえました。ハーブとかドラッグとかそういう」

 森巣が口にした"商人”という言葉に聞き覚えがあった。詳しいことはまだ知らないが、森巣は"商人”と呼ばれる男を追っていたのだと思い出す。

「さっきの叶って人は、滑川のことを狙っているみたいだったよ。事情はわからないけれど、きっと恨まれてるんだと思う」

 オーナーが店には僕らしかいないにもかかわらず、ここだけの話ですよ、という調子で付け足した。

「ありがとうございます。あの、最後に一つ、いいですか?」
「なんだい?」
「アップルパイのテイクアウトを頼めますか?」

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作家です。著作『放課後の帰宅部探偵 学校のジンクスと六色の謎』 読んでる間は楽しくて、読み終わったら何かが残る、面白い小説が好きです。 http://papermoon.gloomy.jp/index.html

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