しょうせつ道11(迷走からの脱走編)
無感動期に突入し、僕が何をしたか?
転職だ! 横浜にずっといるからいかんのだ!!
そう思って、思い切って東京で働き始めた。
でも、働きながら、ちらつく言葉があった。
「小説家になりなよ、向いてるよ」
そう言ってくれた、彼女のことをSさんと呼ぼう。中高の同級生は実名で勝手に書いてるくせに日和りやがってと思った方、その通りです。悪いか!? 悪いな!! ソーリーメーン!!!
Sさんはミステリー小説にハマっているようで、だから僕のことを買ってくれている様子。
でも、僕はもうミステリー小説を書きたくなかった。当時の僕はミステリーに飽きていた。事件が起きて謎が解決されて、それが一体なんなんだ?
僕はテーマのある小説が書きたいんだ!(※ちゃんとテーマのあるミステリー小説もあります。)
でも、書きたいテーマがない。
Sさんと僕の間には長江が流れていた。僕たちは別のタイプの人間だ。
『君の名は。』って面白い? と意見が割れ、彼女は面白い派で、僕は文句ありまくりだった。そういう意見を話し合えるのが楽しかった。他にも、Sさんは超アクティブで今週東京にいたら、来週は大阪、来月は海外、みたいな人だ。
僕はというと、横浜人で東京に行くのでさえ面倒臭い人間だ。
パスポートだけ取得したけど、海外に行ったことはない。
僕と真逆だった。だから面白かった。
Sさんとは月に1度会って話をしていた。
小説や漫画や映画の話をしたり、美術館に行ったり。
こんなにタイプが違うのに、話が合う人はいなかった。お互い、勧めたらすぐにものを観る・読む派だったから、話題も尽きなかった。Sさんが摂取してきたコンテンツを僕は知らなかったから、そういう面でもありがたかった。『東京バビロン』と『少女革命ウテナ』最高だぜ。
大人になると友達を作る機会が減る。
なのに、こんなに気の合う友達ができると思っていなかった。
そんなある日、2人で飲んでいたら、Sさんの口から大切な人が亡くなったという話を聞いた。
僕は言葉の人間のはずなのに、かける言葉が見当たらなかった。
御愁傷様? 時間が解決する? 天国から見守ってる?
全部嘘くさいし、誰かの言葉じゃないか。
その日、何も言えなかった。無力。
Sさんは別に僕になにか特別な言葉を求めていたわけではないと思う。
でも、僕の中で、テーマが生まれた。伝えたいことが生まれた。
Sさんのためだけに、小説を書いてみよう。
2ヶ月と少し先に、日本ファンタジーノベル大賞の〆切があるから、目標もできた。
僕は、会社に行き、帰って来たらすぐに薬を飲んで眠り、夜中に起きて原稿を書いて出社し、帰宅したらすぐに薬を飲んで眠り、夜中に起きて原稿を書く「おかえり睡眠薬作戦」で、原稿を書いた。(※不眠症なので睡眠薬は処方されてるものです。用法用量を守っております。)
小説が完成した。
つづく
ではではまたまた