100万円ゾンビ(初稿-1)
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100万円ゾンビ(初稿-1)

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 趣味は何? と聞かれるときがある。

 当たり障りのない質問だし、本当に知りたいのか疑問に思う。それはただの場をつなぐ為の言葉で、料理を食べて、「美味しいです」だけでは感想として味気がないから「隠し味とか入れてますか?」と訊くようなものだ。

 そんな無味乾燥な質問に対して、どう答えるか少し悩む。素直に答えるべきか? 当たり障りのないことを言うか? でも、僕の趣味は別に恥ずかしいことではないしなぁと考え、「ギター」と口にすると、みんな驚いたような顔をする。中には冗談だと思い、僕が冗談を言うのかと驚く人もいる。

 自分で言うのもなんだけど、僕は目立つタイプではないし、みんなが持つギターの派手で格好良いイメージと結びつかないのだろう。でも、ギターは誰が弾いてもいいものだと思うから、僕は趣味を聞かれるとちゃんと「趣味はギター」と答えている。

 だが、聞かせてよ、となると困る。

「平がギターを弾いてるのは知ってるけど、ライブはしないのか? 弾き語りとか、駅前でやってる奴がいるじゃないか。お前はしないのか?」

 昼休み、人のいない美術室で森巣に訊ねられ、僕は「ないよ」と首を振った。

「じゃあ、今度の日曜日、三時から桜木町の駅前で三十分くらいやってみろよ」

 どうして? と僕が尋ねると、「時間の都合がいいんだ」と言われた。
 家族以外の前で演奏をしたことがない僕は、手を前に突き出して首をブンブン横に振った。

「人前で? そんなの無理だよ、無理!」
「なんだよ、ビビりすぎだろ。ギターを弾いたって殺されるわけじゃあるまいし、やってみろって」

 殺されるわけじゃない。
 森巣との日々を思い返せばその言葉は、あながち冗談で言っているわけではないだろう。駅前でギターを弾いても、睡眠薬をもられることもなければ、銃を向けられることもない筈だ。

「……ええ、でもなあ」

 そう言い淀みつつ、演奏をすることとは別の欲がむくむくと湧いていた。
 森巣と出会って一月以上経つ。事件が起こり、森巣は僕や世間の人が気づかなかった犯人の意図や事件の真相を見破っていく。恐ろしいほど冴える森巣の洞察力を間近で見て、僕は何度も舌を巻いた。森巣は僕と違ってすごい。そんな彼が、何故僕を友達にしたのだろうか。一体、森巣は僕をどう思っているのだろう、と常々思う。

 もし、僕がギターの演奏をしているのを見たら、森巣は一体どんな顔をするだろう?

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如月新一

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とっても嬉しいです…!
作家です。著作『あくまでも探偵は』『放課後の帰宅部探偵 学校のジンクスと六色の謎』 読んでる間は楽しくて、読み終わったら何かが残る、面白い小説が好きです。