しょうせつ道14

しょうせつ道14(リデビュー編)

令和元年5月某日、東京都、護国寺駅のそば、講談社22Fの打ち合わせ室で、僕は群林堂の豆大福を食べていた。
大福は手にするとふにゃりとするほど柔らかく、ぱくっと口にすれば、たくさん入った豆がごろごろとしていて食感が楽しい。アンコも大豆の風味が豊かで、噛みしめる度に甘さがお口の中に広がっていく。僕は甘党なので、とても嬉しい。うんまい。うんまい。大きいからとても嬉しい。うんまい。うんまい。

で、何故、僕が講談社で大福をぱくぱく食べていたのか?

「こ、この大福は一体!?」
「講談社 NOVEL DAYSリデビュー小説賞の副賞です」
「ありがとうございますぅ。おらこんなうんまい大福食べたの初めてだす」
「そいつぁよかった。売り切れる前に買えてラッキーでしたよ」
「よほほほほ」
「うふふふふ」

みたいな会話があったとか、なかったとか。

さて、マジな話に移ろう。そう、この度、拙作『モリス〜悪意と言う名の街〜 』(仮)が講談社主催の「NOVEL DAYSリデビュー小説賞」(略して「リデビュー賞」)を受賞することになった。嬉しいじゃないか! めでたいじゃないか!
https://novel.daysneo.com/winner/kodansha001-winner.html
応募総数400作ほどあったらしく、その中から厳選な選考の結果、自分の小説が選ばれた。非常に光栄なことだ。作家として、チャンスに手を伸ばし、触れることができた! 今回の受賞がなんでそんなに特別嬉しいのかは後半で書くよ。

で、「リデビュー賞」is 何? と思われる方もいるだろう。ザックリ説明すると、この賞はちょっと珍しい文学賞なんだ。というか、僕も初めて聞くコンセプトだった。公募型の、本を出したことのあるプロの作家限定の小説の賞だ。新人作家を輩出する賞ではないので、「リデビュー賞」(再デビュー賞)というわけだ。なるほどねぇ。

僕は、プロの作家になりたくて、商業作家になった。が、なっただけじゃ足りなかった。リデビューしなければならなかった。
デビューした後、自分はまだまだこんなもんじゃないと思っていた。このまま消えてたまるかよと思っていた。作家であり続けたかったんだ。

僕が作家になったのは、2018年の4月10日だ。
スカイハイ文庫賞を受賞し、『放課後の帰宅部探偵 学校のジンクスと六色の謎』でデビューした。今までの著作はこれだけ。
本は刊行され、書店に並び、応援してくれる書店員さんからメールをいただいたり、読者の方にtwitterでご感想をつぶやいていただいたり、WEBでレビューを書いていただいたり、本屋さんで応援展開していただいたり、書評家の方に文芸誌で何度もご紹介いただいたり、憧れの小説家からはお手紙を、憧れの漫画家先生たちからはtwitterでご感想もいただけた。

大作家先生過ぎるので勝手に名前を出しちゃいけないと思うから、伏せさていただくが、昔新人賞に応募し、最終選考に残った時、僕の小説をとても褒めてくれた小説家の方がいた。
僕は元々その先生のファンだったから、とてつもなく嬉しかった。まさか拙作をあの先生に評価してもらえるとは! と嬉しくて、僕には才能があるのかもしれんぞ、だって褒めてもらえたし、と心の支えにしていた。
なので、デビューした際に献本をさせていただいた。
そうしたら、なんと! お手紙をいただいた!
内容は、僕があれからもめげずに書き続けてくれて嬉しかったということと、「出版のチャンスをつかんで貪欲に作家であり続けてください」という激励だった。器が違う! なんて優しい先生なのだろうか!
(ちゃんと額縁に飾って、何度も読み返している。)

他にも、高校時代に漫画通の友人から『ハックス!』を借りて読み(この後ちゃんと買った)、先生の作品にどハマりし、先生と共通のファン作品であるTVアニメ『GJ部』の合同同人誌でもコラボさせていただいたことのある、『アリスと蔵六』(COMICリュウ)を連載中の今井哲也先生のご感想をいただいた。ツイートを何度も読み返して、震えている。憧れの人に、楽しんでもらえたのだ。光栄の極み!!


さらに、こちらも高校生の頃に『ネムルバカ』にガツンとやられ、『それでも町は廻っている』を狂ったように読み、デビュー作のヒロインのキャラクターメイキングにめっちゃくちゃ影響を受けた『天国大魔境』(月刊アフタヌーン)と『木曜日のフルット』(週刊少年チャンピオン)を連載中の石黒正数先生からご感想をいただいた。

感涙したよ。書いてよかった、としみじみ何度も頷いた。他にも大学からの腐れ縁で、『吸血鬼すぐ死ぬ』(週刊少年チャンピオン)を連載している盆ノ木至も応援ツイートをしてくれた。

うん、盆。いつもありがとな。
また新横浜で中華食おうぜ。ただしセロリ、手前はダメだ。
一緒に原稿会もやろうな。っていうか、大学の頃から会うペースがあんま変わってないよな。今後ともよろしく。

ってな感じで、たくさんの人に応援していただき、評価もしていただき、ありがたかった。読者の方からも、たくさん「続刊たのしみです!」とご感想をいただけて、嬉しかった。楽しんでもらえた、とわかってほっとした。

…………。

順風満帆そうじゃねえか!

デビューしたばっかのくせに
リデビューとか言い出すの早くねえか??**

そう思われる方もいるだろう。

でも、ちょいと話を聞いてくださいよぉ(泣)

何故にプロの作家になったのか? と自分に問うたら、小説や物語を書きたいからなんだ。僕は不遜にも、自分が作家になるとわかっていた。自分の人生で100を賭けてるんだから、なれないわけがないと思っていた。
高校の卒業アルバムでも、先生に「俺は文章で食ってきます」と書いた。今考えると、昔から根拠のない自信があったもんだよ。でも、なれるとはわかってたんだ。
書き続ける人生を送りたい。だけど、書き続けるには書く時間が欲しい。書く時間を作るためにはお金が欲しい。書いてお金になれば、書く時間にも繋がり、作品も書けて嬉しい。だからプロの作家になりたかった。

中学生の頃から新人賞に投稿を始めた。大学に入ったら、ほぼ毎月どこかに投稿した。会社員になっても、ご飯・睡眠・風呂トイレ以外の時間はずっと小説にあてていた。
夜帰って来たらすぐに寝て、夜の2時に起きて朝の8時まで原稿を書いて出社して、帰って来たらすぐに寝て、夜中に起きてコーヒー飲みながら食パンをかじりながら執筆するという今思えば狂った生活スタイルを送っていた。

デビュー前、僕はそんな生活を送りながら、自分がデビューしたら、作家一本ですぐにやっていけると思っていた。すぐに続刊の話があったり、デビューした版元さん以外の出版社さんから「うちで書いてみませんか?」と声をかけていただけるのだと思ってたんだ。
それであわよくばメディアミックスされて知名度が上がったりして、メディアミックスされた作品を「ほほう、こう来ましたか」とほくほく楽しむつもりでいた。ああ、なんてうかれぽんち。

だが、現実は違ったのである。

「あのう、続刊楽しみにしていますっていうお声をいただいてるんですが」
「いやぁ、今の売り上げじゃ厳しいですねぇ」

担当編集さんの言葉を聞きながら、「ぐ、ぐぎぎぐぐ」と奥歯を噛み締め、「しゃあないっすねえ」と言うしかなかったよ。
僕の本を読んでくださった他所の編集者の方から、「うちで書いてみませんか?」というお話もいただいた。打ち合わせもした。だが、相手の編集さんもお忙しいようで、その後を待っていたらそのままお話はどんぶらこと流れてしまった。どんぶらこ〜(´-`)

他にも、電子書籍化確約のコンペで受賞し、長編原稿を書き下ろしたのに、担当編集者がバックれて、企画が流れたものもある。
僕に一言も言わずに、彼はプロジェクトをやめた。で、他の仕事をしてツイッターで仕事できる人アピールもしてる。

は??? そう思いながらも、できることはない。

そんなこともありつつ、でも、ありがたいことに、DMM TELLERというアプリでのチャットノベルのシナリオのお仕事のご依頼もいただき、そちらは書かせていただいている。『謎解きAI ZQの事件簿』という連載をした。今も別タイトルの準備中だし、別の会社からご依頼をいただき、ノベルゲームのシナリオ作成をしている。本気で書いているから、発表されたらたくさんの人に楽しんでもらいたい。

だが、思うのである。

本を! 俺は本を出したい!!

僕は仕事帰りに本屋さんに寄って買い物をする。地元の行きつけの本屋さんで買い物をしていたら、顔と名前を覚えてくださった優しい書店員さんに、ご挨拶をしていただいたり世間話をするようになった。
あの本面白かったですねぇとか、この棚素敵ですねえなんて話をしたりするのだが、話の流れで、やはりこの話題になる。

「如月さん、次の本はいつ出るんですか?」

僕はバツの悪さを覚え、新作も書いてはいるのですよ、と思いながら答える。

「打ち合わせはしてるので、そ、そのうちに」

_:(´ཀ`」 ∠):
そう答えるしかない。本が好きな人、僕のことを応援してくれている人、待ってくれている人の為にも本を出したい!! 何より、僕は本が好きだから、自分の本をもっと出したい。多くの人に読んでもらいたい!
……だけど、機会がない。

デビューして、思ったことがある。みなさん、お気づきだろうか? なんと、本屋さんには本がたくさんあるのだ!!
……いや、何を当たり前のことを、とお思いだろう。だけど、プロになってから本屋さんに行くと、本ってこんなにたくさんあったっけ? と慄いてしまった。
こんなに本がたくさんある中で、僕の本は見つけてもらえるのだろうか? 気になって本を取ってもらえるのだろうか? ぱらっと読んで気になって買って読んでもらえるのだろうか? そう考えると呆然とする。

デビューして時間が流れた。「売れれば続刊が出るかもです」とデビューした本の編集さんは言ってくれた。だけど、何もしないで売れるのか? 本が出たのは去年の4月だ。その間にも新しい本はどんどん出てくる。広告を出せる機会もあったのだが、新刊じゃない限りプロモーションにお金は使いませんと教えてもらった。ぐぎぎぎぎぐぎぎ。でも、そういうもんか。仕方がない。

ありがたいことに、いつまでも僕のことをひいきにしていただいている本屋さんもある。平積みにしたり、目立つように置いてくれているお店もある。
だけど当然、そういうお店ばかりではない。
いつまでも僕の本を目立つ場所に置いてもらえない。スペースの関係で棚差しもしてもらえなくなるし、仕入れてももらえない。ふらりと入った本屋さんでデビューしたレーベルのコーナーに僕の本がないのを見ると、寂しい思いに襲われる。本屋さんに自分の本がないのに、売れるわきゃあないじゃない。続刊も出ないよ、これじゃあ。

待ってても本は出せない。できることをしなければ。
貪欲になろう。

twitterをやっている編集者さんを見つけ、編集さんの担当作品を読み、好きな作品だったらDMをお送りさせていただいた。
作品の感想と「もしよろしければ拙作ををお送りさせていただきたいので、送付先をご教授いただけますでしょうか。また、お楽しみいただけましたらお仕事ご一緒させていただければ幸いです」という内容の営業を始めた。

そして、それだけではだめだ、僕の知名度も上げなければ! と再び、賞への投稿を再開した。
文春文庫 第2回バディ小説大賞で入賞し、ジャンプ小説新人賞テーマ部門の金賞を受賞した。だけど、本を出そうという話にはなかなか繋がらない。き、厳しい世界だ。これが、逆境!!

途方に暮れそうになる度に、空を見上げる代わりに憧れの小説家の方からいただいた、「チャンスをつかんで貪欲に作家であり続けてください」というお手紙を読み返す。へへへ、腐ったら終わりだぜ。

そんな中、講談社のリデビュー賞を知った。

どうしても新人作家さんや、一部の大御所作家さんが、中心になってしまう今の時代だからこそ、私たちは、すでにプロとしてデビューされた方で、新しく活躍するフィールドを求める方に限定した賞を創設したいと思います。そして、もっと評価されるべき才能の再デビューを、講談社が全力をあげてプロデュースをさせてほしいのです。もう一度、小説の面白さを、講談社を、そしてなによりも、あなたご自身の創作の才能を信じて、傑作を世に送り出しませんか?繰り返します。私たちは、小説の未来と作家の才能を信じています。ご応募、お待ちしております。(講談社文芸第三出版部より)

僕はまだ新人だ。デビューして1年経ってなかった。だが、待っていても次はない。チャンスは掴みに行かなければないのだと思い知った。
プロ限定の賞、作家を応援してくれている賞、力を入れてプロデュースしてくれる賞、願ってもないものだった。ライバルがアマでもプロでも関係ない。本屋さんに並べば、相手は全員プロなのだから。
そして何より、僕は、僕の小説を信じているし、人に届けたかった。

僕は小説を書き続けている。だから、たくさん引き出しにしまっている小説があった。そんな中に、どこに投稿するか迷ってる小説があった。
リデビュー賞はジャンルの規定がないし、その小説を楽しんでもらえるのではないかと思った。なので、リデビュー賞のことを知ってすぐに投稿したよ。

だが、すぐにダメだろうな、と思った。
NOVEL DAYS(投稿サイト)のランキングに入らなかったんだ。ランキングの上位にずっとある作品を見て、ネットの賞だし、人気作を引っ張り上げるのだろう、僕のは読んでもらえんだろうな。投稿サイトで人気がない作品じゃあ、きっと相手にされないな。次よ次、と思うことにした。
そんなわけで、僕はリデビュー賞に応募したことも記憶の彼方にやり、新作を書いていた……。

だが、ある日、講談社の方から連絡が来た。

「改稿をして、リデビュー小説賞の受賞作の一つとして、
刊行に向けて動きたいと思っているのですがいかがでしょうか?」

寝耳にWATER! WATER!!

というわけで、講談社の会議室で大福をもぐもぐしながら打ち合わせをしてきた。ネットの賞だから人気がないと無理だと思ってたとお話をしたら、全作品みんなでちゃんと読みましたので、と聞かせていただいた。邪推してすいませんでした。ありがたやぁ! ありがたやぁ!
そして、僕の小説のどこが良いと思ったのか教えてくれて、嬉しかった。だけど、どうすればもっと良くなるのかを真剣に話し合えたことの方が嬉しかった。
「ここをもっとこうしましょう」「今思い返せば、僕はもっとこうしたかったんですけど」「それいいじゃないですか」「だったら、こうなったら面白くないですか?」「構成をこう変えてみたら」「読者が読みたいのは、このキャラのこういう面だと思うんですよ」「僕が書きたいことや伝えたいのも、そういう話です」「直しましょう」「良い小説にしましょう」などなど、白熱した初回の打ち合わせを行った。三人で、このキャラたちって、と同じ妄想をしながら話を膨らませるのは楽しいひとときだった。

これまたよく聞く話だが、作家になってからが大変だ。スタートしただけなのだと痛感した。作家であり続けるために、貪欲にやっていくしかない。

僕は今、リデビュー賞という、今までになかった文学賞を受賞し、身が引き締まる思いでいる。良い小説をお届けできるよう、これから修正・改稿に移る。今から、早くみんなに読んでもらいたいと思っている。なんだかとってもワクワクしている。
受賞作がお楽しみいただけたら、これほど幸せなことはないです。

で、でしてね、「リデビュー賞」受賞作品が発売されるまでの間、僕も改稿作業をがんばりますので、その間みなさまには僕のデビュー作『放課後の帰宅部探偵 学校のジンクスと六色の謎』(スカイハイ文庫)をお読みいただきつつ、お待ちいただけますと、とっても嬉しいです…!

最後は宣伝かよ! とお思いでしょう。
でもでも、宣伝もさせてくださいよぉ。
自分でできることはしないといかんのですよぉ。

作家、如月新一、リデビューに向けて再始動いたしますので、ごひいきいただけますと幸いです!

講談社「リデビュー賞」受賞作の刊行も乞うご期待!
ではではまたまた!

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