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『あくまでも探偵は』シリーズのおはなし

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2021年1月15日『あくまでも探偵は」発売 2021年1月24日重版&シリーズ化決定 しかし、あれから一年が過ぎてもまだ、続刊は発売されていない。 チームは今や半分以下。彼らに… もっと読む
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2019年8月の記事一覧

「クビキリ」(初稿-9)

「クビキリ」(初稿-9)

      9

 初めて会ったマリンは写真で見るよりも愛嬌のある顔をしていた。青い右目は神秘的だけど、この犬の価値はそんなものではないように思う。

 マリンは、自分の首が切り落とされるかもしれなかったなんて、夢にも思っていないだろう。僕たちを先導して歩き、時々無邪気な笑顔で振り返る。犬は口を開いていると笑っているように見えて、こちらの頬も緩んでしまう。

「犬は呑気なもんだな」

 リードを握

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「クビキリ」(初稿-8)

「クビキリ」(初稿-8)

       8

 森巣が鼻先まで持ち上げていたティーカップをゆっくり下ろした。

『きれいは汚い、汚いはきれい』人は見かけじゃわからない。森巣はまだ、僕を油断させようとしているのではないか、味方のふりをして欺いているのでは? と額に冷や汗がぶわっと浮かぶのがわかる。

 もう、何を信じていいのかわからない。
 ぐわんぐわんと目眩が起きているようだ。

「お待たせお待たせ」

 リビングの扉が開

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「クビキリ」(初稿-7)

「クビキリ」(初稿-7)

       7

 壁に取り付けられている、インターフォンのモニターを見て、殺人鬼が僕を探しにやって来たような戦慄を覚えた。

 そこには、柔和な表情の森巣が写っている。何故、森巣がここにいるのか。もしかして、瀬川さんに『森巣の知り合いのことをまだ信じない方がいい』と言ったことに怒り、僕を探していたのだろうか?

 隠れても無駄だ、僕がここにいることはお見通しだとでも言うように、再びピンポーンと

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「クビキリ」(初稿-6)

「クビキリ」(初稿-6)

       6 

 詳しく話を聞こうと案内された柳井先生の家は、瀬川さんの家の近所にあるレンガ調をした外壁の、庭とガレージ付き一軒家だった。玄関には観葉植物が置かれ、来客を出迎える大きな油絵が掛かっている。

「どうした、平? ぼーっとつっ立って。ここは職員室じゃないから、遠慮しなくていいんだぞ」

 柳井先生がずいずいと奥のリビングへ向かっていく。そうは言われても、と僕は緊張しながら用意され

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「クビキリ」(初稿-5)

「クビキリ」(初稿-5)

       5

『森巣くんは信じても大丈夫だよね?』

 僕の心の声ではない。瀬川さんからの着信だ。
 小学校を後にし、思考の迷路に迷い込むように、町を彷徨っていたらスマートフォンに瀬川さんからの着信があった。

『違うな、森巣くんの知り合いって信じても大丈夫かな?』

 絞り出された不安そうな声が、スピーカーから耳に届く。

「知り合い? どういうこと?」
「連絡があってね、森巣くんの知り合

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「クビキリ」(初稿-4)

「クビキリ」(初稿-4)

       4

 瀬川さんの犬を奪った犯人が逃げ込んだ先は、袋小路だった。
 だが、そこに姿はなかったのだと言う。

 犯人は煙のように消えたのか? そんな馬鹿な、とこの話を何度聞いても狐につままれたような気持ちになる。

 森巣はどう思っただろう? 面食らっているだろうと顔色を窺う。顎に手をやり、思慮深そうに周囲に視線をやって観察していた。なんとなく、彼の周りの雰囲気がピリッと張り詰めている

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「クビキリ」(初稿-3)

「クビキリ」(初稿-3)

       3

 瀬川さんと僕は二年になって同じクラスになり、知り合った。

 髪は肩に届かない程度に切りそろえられ、前髪はヘアピンで留め、制服も着崩さず、知的な雰囲気の赤いチタンフレームの眼鏡をかけていて、委員長然としている。かといってお堅い雰囲気はなく、笑顔が素敵だし優しい雰囲気を醸し出しているので話しかけやすい。

「瀬川さんごめん、ちょっとこの英訳の相談をしたいんだけど」
「いいよ、ど

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